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私の生活と心情
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小林和作
潮流

 絵はかく事も大切であるが、その前に構図や絵になる素材を求める事が更に大切である。かく方の力はたいていの人はそう高下がなく一定しているようであるが、絵のモチーフなどを捜す時の智恵や根気の強さは大差があるようである。世の中には美しいものは多いが、それが美しく磨かれて置かれたり、すぐ人目につくような形で在るものではない。優れた美しいものでも、ある人は一顧もせずに通りすぎる事もあり、かかる美を発見し得る優れた能力を持つ人でも、ある時には気分や条件の差で迂濶に通りすぎる事もある。美しいものを見出すのは能力でもあるがその人の運であるとも思える。しかし、絶えず注意深く美しいものを求めて歩く人は、よほどの不運でない限り、いつかは求めるものに遭うものである。私は元来美しくないものはどう上手にかいても美しい絵にはならぬと思う。私はそんな意味で、構図やモチーフには他の人よりは多く苦心する。或いはそれらが一枚の絵の運命を定め、更にそれらが積り積ってその画家の一生の運を定める事にもなり得る。しかし、何が美しいかも大いに問題であるが、とにかく美しいものか、強く心を打つものを根気よく捜し求めて、それを磨き上げて画面へ置く事は極めて大切である。
(昭和三十五年)
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