小林和作>エピソード
尾道に溶け込もうとする和作の努力
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小林和作 笠井先生のアトリエで果物の静物画の練習をしたときのスケッチも残っている。南人子を除いて知人らしい知人のいない和作にとって、笠井家の二階に集まるアマチュア画家たちは、尾道という未知の土地に自分を落ち着かせる手がかりでもあった。零落の寂寞感からともすると浮き足立つ自分を尾道にしばりつけようと努力し、尾道に溶け込ませようと和作は努力した。しかしその努力が和作自身の心の中に実るのは、もう少し後のことである。尾道へ来て三年間は、零落の寂しさと、尾道に溶け込もうという努力の複雑に入り組んだ試行錯誤の時代であった。(評伝149より要約)

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メロンとスイカのエピソード:和作の好物に西瓜がある。夏は絶対的に西瓜でなければならない。メロンや葡萄では駄目なのだ。小林家に行くと、よくメロンが出た。到来物が多いから、それを消化するためにメロンが出る。客はそれをメロン好きと間違えて、またメロンを手土産にするというわけで悪循環が続いた。しかし、本当は西瓜をぶらさげて行くべきだったのだ。西瓜といえば、こんな逸話がある。
尾道の西のはずれ、岩子島へ写生に行ったとき、和作はむやみに喉が渇いた。夏のことである。見れば眼の前の畑に実にうまそうな西瓜があっちにごろごろ、こっちにごろごろ、食べてくださいといわんばかりに成っている。和作は我慢がならなかった。遂にいちばん熟していそうなやつをツルからもいで、拳でコツンと叩くと弾けるように割れた。和作は夢中でかぶりついた。あっというまに丸一つ平らげてしまった。そして紙切れに「すみません」と書き、金と一緒にもぎ取った跡のツルにくくりつけて立ち去った。(評伝224〜225)

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